100人に1〜2人がその悩みを抱えていると言われている〈強迫症〉
当事者である監督が“もっと多くの人に病気のことを知ってほしい”と作った物語

小さなことや目に見えないことが気になって頭から離れず、何度も確認を繰り返したり、馬鹿馬鹿しい考えと知りながらその不安と恐怖に耐えられず、不安を消すための行動をしてしまう<強迫症>。しかし、悩みを抱える人はそのことを隠す傾向にあり、意外と多い病気の割に知名度は低い。

 

本作の監督をつとめた福原野乃花は、7歳の頃に<強迫症>を発症。しかし「普通ではない自分は気持ち悪がられるのではないか」という恐怖から誰にも相談することができなかった。20歳の時、勇気を出して悩みを打ち明け、「もう一人ではないんだ」と肩の荷が降りたという。人に頼ることの必要性を知った経験から、いまなお苦しみの渦中にいる人たちに向けて、また<強迫症>をもっとたくさんの人に知ってほしいとの思いで本作を企画。多くの人の賛同を得て、映画を完成させた。

強迫症とは

自分にとって無意味またはおかしいと判断される考えや行動を制御できなくなるという症状を特徴とする疾患。平均発症年齢は20歳前後と若い人に多いが、受診するまで何年もかかることも少なくない。男女差はないが、児童、思春期に発症する症例は男性の割合が高いとされる。

【原因】

まだ解明されていないことも多いが、脳神経の情報伝達に関係する物質の機能障害や、神経回路の異常などが関係していると言われている。

【症状】

「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状がある。

「強迫観念」の例

・手が細菌に汚染されていると感じる
・外出の時に鍵を閉め忘れたのではないかと感じる
・不吉に感じる数字(4や9など)を過剰に気にする

「強迫行為」の例

・手洗いを何度も繰り返す
・鍵を閉めたかどうか何度も確認する
・物事の手順やタイミングなどにこだわり、同じ動作を納得するまで何度も繰り返す

(出典)兵庫医科大学病院ホームページ「もっとよく知る!病気ガイド」

人との間に壁を感じ、学校や家で一人で過ごしている高校生の悠(水崎涼花)。4月になり、女子バスケ部のマネージャーをしている優乃(小谷慈)と同じクラスになる。いつも明るく友だちと楽しく過ごしている優乃は、時々「定休日」と称して学校を休んでいた。
ある朝、悠が遅刻して登校しようとすると、近くのベンチにうずくまっている制服姿の優乃を見かける。別の日の朝も、公園で時間を持て余している優乃に出会う。「学校に行きたくない」という優乃を、悠は近くの海辺へと誘う。
悠は、入学した頃から優乃のことが気になっていた。いつも同じ時間に人けのない手洗い場で手を洗い続けている優乃の姿を偶然見ていたのだ。優乃は、抱えている悩みを誰にも悟られないよう必死に隠して生きていたが、悠に知られていたことを知り、打ち明けることを決める。

脚本・監督:福原野乃花(ふくはらののか)

2001年生まれ。神戸市立葺合高校卒業後、2020年大阪芸術大学短期大学部に入学。メディア・芸術学科の映像コースで映像制作について学ぶ。 大学を卒業した2022年5月、初めて強迫性障害に関する受診のために通院し、6月より治療を開始。同時期に強迫性障害に関する発信も始める。同年9月に本作を企画。2023年にクラウドファンディングを募り、映画を完成させた。

監督コメント

私が強迫性障害を発症したのは7歳の時でした。ですが、それから20歳になるまでの13年間、そのことを誰にも相談することが出来ませんでした。それは自分の悩みは恥ずかしくて気持ちの悪いものであり、話しても理解されないと思っていたからです。
高校生の頃は特に症状が酷く、地獄のような毎日を送っていましたが、それでも誰にも話せず、けれども自分の力ではどうすることも出来ず、何も変えられ無い状況にどうしたらいいのか分からなくなっていました。
大学生になってもその状況は変わらず、「私はこれからも嘘をついたりその場しのぎでごまかしたりしながら、周りに迷惑をかけて生きていくのか」と思ったとき、1人で頑張ることに諦めがついて、人に頼ろうと思うことが出来ました。最初はとてつもない勇気が要りましたが、溜め込んだ思いを話し終えたとき、もうこれで1人じゃないんだと思ったら肩の荷がずどんと下りました。私は誰にも話せないことの苦しさと、人に話すことへの恐怖心と、人に頼ることの必要性を知ることが出来ました。だからこそ、今もなお苦しみの渦中にいる人にこの映画を届けたいと、強く思っています。

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