INRODUCTION

韓国「#Me Too」ミートゥー運動の熱気から3年、残された課題と連帯の軌跡を追う4つの物語ドキュメンタリー

2017年秋、世界中に広がった「#Me Too」キャンペーン。この、性暴力の被害体験を「#私も」というハッシュタグととともにSNSに投稿する運動は、韓国でも大きく盛り上がった。実はその前年、韓国では「女性だから」という理由で若い女性が見知らぬ男に殺害される事件が起きていた(2016年江南カンナム駅通り魔殺人事件)。女性たちは憤り、これまで抑圧されていた思いが一気に噴き出していく。フェミニズムの気運が高まるなか、2018年、現役の女性検事が上司からの性暴力を告発したのを機に「#Me Too」運動は急速に広がり、女性たちは社会変革に向け様々な取り組みを実行していった。

それから3年後の2021年。かつての熱気が落ち着いた「#Me Too」は、どのような状況にあるのかーー。これまでもフェミニズムをテーマにした作品を手がけてきたカン・ユ・ガラム監督を中心に、世代の異なる女性監督4人が集まって制作されたドキュメンタリー『アフター・ミー・トゥー』は、「#Me Too」のその後を映し出していく。

本作は、4編のオムニバスで構成され、学校やアートの現場で「#Me Too」運動に参加した人たちの“その後”を描く作品や、「#Me Too」から取りこぼされた中年女性の姿を追う作品のほか、「#Me Too」とも言い切れない、「加害」「被害」の区分けが難しいグレーゾーンをテーマにした作品も収め、「#Me Too」の先にある新たな課題を観る者に問いかける。

STORY

<女子高の怪談> (監督:パク・ソヒョン)

教員によって長年続いていたセクハラ・性暴力が代々「怪談」のように言い伝えられてきた女子高。2018年、生徒たちは声を上げ、「怪談」を「真実」として社会に突きつける。韓国「#Me Too」運動のなかで最も多くの人々が参加した「スクールMe Too」(学内性暴力の告発)のその後を記録する。

<100. 私の体と心は健康になった>(監督:イ・ソミ)

2020年、一人で暮らす49歳の女性。幼少期に性暴⼒に遭い、そのトラウマに⻑年苦しんできた。
「自分にできなかったことは、苦しかった話を大声で話すこと」。彼女は意を決し、かつて過ごした故郷へと向かう。

<その後の時間>(監督:カン・ユ・ガラム)

「アートMe Too」に参加し、創作と活動の間に揺れるアーティスト3⼈の現在を追う。このままでは活動家になってしまうのではという不安。自分たちの活動は性暴力防止に本当に役立つのか、問題は誰が解決すべきなのか。自問自答しながら前に進むアーティストたちの姿を映す。

<グレーセックス>(監督:ソラム)

恋愛も性的なコミュニケーションもしたい。それはお互いの愛情を感じられる行為だから。けれど、相手が一方的なこともある。恋人関係やマッチングアプリでの出会いで感じたもやもやを4人の女性が語る。被害/加害で定義できない不快感、性的自己決定権という言葉では線引きが難しいグレーゾーンに迫る。

DIRECTOR

監督:パク・ソヒョン(#1:「女子高の怪談」)

30代の女性たちの連帯をテーマにした『夜勤の代わりに編み物』(2015年/日本未公開(以下同))が第18回ソウル国際女性映画祭で受賞し、本格的に監督としての活動を開始する。以後、『転がる石のように』(2018年)、『砂漠を渡って湖を通って』(2019年)などドキュメンタリー製作者として繊細で温かい視線で世界を描いてきた。女性の労働、体、日常などをテーマに女性たちの姿を撮り続けている。 【FILMOGRAPHY】『洗濯物』(2021年)、『砂漠を渡って湖を通って』(2021年)、『転がる石のように』(2018年)、『夜勤の代わりに編み物』(2016年)

メッセージ

性暴力は、個人と個人の問題として捉えられがちですが、繰り返し起こっています。それは構造的な問題が存在するからです。『アフター・ミー・トゥー』では、その点を掘り下げ、「#Me Too」以降に起きた社会的な変化について取り上げてみたいと思いました。<女子高の怪談>に出演した卒業生は、教室で机を並べていた友人が暴力的な状況にさらされていたのにもかかわらず、何もできなかったことに罪悪感を感じていました。“だから付箋紙で「#WITH YOU」と伝えたかった人が多かったのだと思う”と語っていました。私にもそういう思いがあります。『アフター・ミー・トゥー』が様々な女性のもとに届くことを願っています。

監督:イ・ソミ(#2 <100. 私の体と心は健康になった>)

セクハラ被害を受けた数年後に自身の感情と向き合う姿を追った短編『観察と記憶』(2017年/日本未公開(以下同))が第36回釜山国際短編映画祭にて最優秀作品賞を受賞。その後、国内の「性少数者を持つ親の会」の活動を追い話題となったドキュメンタリー映画『君に行く道』(2021年)の撮影を担当するなど、今後が期待される次世代ドキュメンタリストの一人である。
【FILMOGRAPHY】『君への道』(2021年/撮影)、短編『観察と記憶』(2017年)

メッセージ

被害体験について語ってもらうたびに、私はいつもエネルギーを得る思いがします。私たちが連帯していくことのできるエネルギーです。そのようなエネルギーを『アフター・ミー・トゥー』という映画を通して、皆さんに伝えることができたらいいなと思います。

監督:カン・ユ・ガラム( #3 <その後の時間>)

1950年代に人気を博した女性のみの唱劇「女性国劇」をテーマにした長編ドキュメンタリー『王子になった少女たち』(2013年/日本未公開(以下同))に助監督として参加し、ドキュメンタリー制作のキャリアを開始。その後、独自の視点でフェミニズムをテーマにした作品を制作している。フェミニストたちの歩みを追った『私たちは毎日毎日』(2021年)は、第45回ソウルインディペンデント映画祭で審査員賞を受賞し高く評価された。
【FILMOGRAPHY】『私たちは毎日毎日』(2021年)、『梨泰院』(2019年)、『時局フェミ』(2017年)、短編『真珠ヘアサロン』(2015年)

メッセージ

この映画を通して、「#Me Too」運動は被害者と加害者の問題ではなく、私たちの社会全体で一丸となって解決しなければならないコミュニティの問題だということを伝えたいです。性暴力を黙認することは、コミュニティに悪影響をもたらします。被害者を支援する女性団体だけでなく、コミュニティのメンバー全員が関心を持たなければいけません。この作品に登場するパントマイム俳優のイ・サンが言ったように、友人や家族、職場の同僚など身近にいる人たちも手助けができると思います。コミュニティが解決していかなければならない課題なのです。「#Me Too」運動をどう解釈し、どのように受け入れていくかをよく話すこと。そうすることで私たちの社会に変化が起こると信じています。

監督:ソラム( #4 <グレーセックス>)

かつて韓国で長く続けられた「夜間通行禁止令」のように、夜の外出を禁止された女性たちの姿を追った映画『通行禁止』(2018年/日本未公開(以下同))を演出したソラム監督は、日常生活で起こる不条理な体験や抑圧をリアルに描き、女性たちの共感を集める。
【FILMOGRAPHY】『通行禁止』(2018年)、短編『モクバン(食べる放送)』(2013年)

メッセージ

この作品で一番伝えたかったことは、感情や欲望をなかったことにせず、または自分を責めたりもせず、全部ひっくるめて認めてあげてほしい、ということです。様々な感情と欲求がすべて存在したことを認めて、自分自身を尊重しよう。そんな話をしたいと思いました。この作品を観て、同じように不快感を感じたなら、それには理由があったのだと、自分の心のなかを覗き込んでほしいと思います。

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